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抜本的解決法

「こんな場所へまでご足労いただきましてすみません」
 僕の言葉に目の前の人物は鷹揚に首をふる。こんな場所というのは屋上だった。昼間の明るい陽射しが真上に近い場所から降り注いでいる。季節は夏ではないから暑くはない。どちらかというと風が肌寒いくらいだ。どのみち長く留まるような場所ではない。
 本題へ入ろう。
 わざわざその人を屋上へ呼び出したのは、ほかの誰にも聞かせられない話をするためだった。これから僕のちょっとした秘密を共有してもらうつもりだ。
 これは一種の賭けだった。
「もしかしたらあなたはもうお気づきかもしれません。ですが、はっきり言っておいたほうがいいと僕は考えました。そうするのがフェアだと思ったからです。あなたは僕を軽蔑するかもしれませんが、これからお話することは僕の偽らざる気持ちです」
 むきだしのコンクリートの地面にはふたり分の淡い影が落ちている。ゆらゆらゆれるそれは僕の不安定な感情を映し出しているみたいだ。しかしこれから話すことは、まっすぐ相手の目を見てでなければならない。
 僕の意思が本物であることを示すために。
「僕は彼が好きです。それはあなたと同じ、恋愛感情という意味で、です。……いまさら隠すのはやめてください。僕にはあなたの気持ちがわかる。ですからあなたにも僕の気持ちがわかるのではないかと思っています。あるいはあなたは僕のことを気持ち悪いと思うかもしれません。確かにこれは社会的に容認されるような感情ではありません。異常だと罵られても僕はそれを否定しません。ですがその分僕は大きなハンデを負っています。彼に受け入れられる可能性は著しく低い。そうは思いませんか。こんな告白をしたところで僕はあなたと対等の立場にはなれないとわかっています。ですが僕はあなたに隠し事をしたくはなかった。フェアに争いたかったのです」
 長い告白だったが、彼女は口をはさまずに最後まで聞いた。その顔は真剣で、僕を茶化すようでは決してなかった。
「軽蔑なんて、するわけないわ」
 やがて響いた彼女の声は、きりりと澄んで、あたたかかった。
「よくわかったわ、古泉くん。教えてくれてありがとう。あたしも自分をごまかすのはやめにする。今日からあたしたちはライバルね。……どんな結果になっても、お互いに恨みっこはなしね」
 僕は微笑んだ。そんな答えが返ると予想はしていた。もちろんそうでなければこんな告白なんか最初からしていない。しかし実際それを聞いたときの安堵は大きかった。彼女の目がなければその場にへたりこんでもおかしくはないほどに。
 彼女はやさしい人だった。そしてフェアな人だった。春からこちら、精神的な成長をくりかえし、もはやそう簡単なことではゆらがない。
「ありがとうございます、涼宮さん」
 世界はこんなことでは崩壊しないと知ったその日、はじめて僕は彼に告白する権利を得たという気がした。

[20070917]