足の小指ほかいろいろ
がつんとすごい音が響いて、俺は思わず呼吸が止まった。
「いっ……!」
悲鳴もろくに上げられない。こういうのはいわゆる悶絶するって状態なんだと思うね。よくあるだろう、箪笥の角に足の小指をぶつけただとか、閉まる扉に一本だけ指をはさんだだとか。
ピンポイントなくせにものすごく痛い。一瞬全身がしびれて動けなくなる。
俺がそんな状態だというのに、古泉は至近距離から不満そうに、「まだ挿れていません」なぞと言いやがった。あほかおまえは。さっきのすごい音を聞いていなかったのか。
……聞こえてなかったんだろうな。
今の古泉の顔たるや見ているこっちが恥ずかしくなるほどだ。すっかり上気した肌に薄い汗を浮かべて、目は潤みながらもぎらぎらしてて、唇だって濡れ濡れといやらしく光っている。おまえそんなにしたいのか。たぎっているのか。興奮しすぎて血管切れそうなのか、そんなに見苦しいほど俺がほしいのか。
ああしかし嘆かわしいことに俺の今の表情だって古泉といい勝負だろうから文句は言えない。むしろ嬉しいと感じてしまうあたり俺の頭も大概どうかしている。
真昼間から古泉の部屋で、すぐそばにあるベッドに移動する余裕すらなく、それとテーブルのあいだの狭い空間に折りたたまれるようにしてまでつながろうというのだから、いまさらテーブルにぶつけた足の痛みなんかいちいち訴えるほうが悪いのかもしれない。
しかしいまさらついでに言わせてもらうが、痛いのは実は足だけじゃないんだ。ぐいぐい容赦なく曲げられた腰から背中にかけてはびりびり電流が走ったみたいになっているし、思いっ切り広げられた股関節に至ってはもはや何をか言わんやだ。
はっきり言って俺は身体が硬い。体育の授業では柔軟のときにおじいちゃん呼ばわりされているくらいだ。だからこの体勢はきつい。ものすごくつらいと言っていい。
だがこれは古泉だけのせいじゃないから、俺にも同程度の責任のあることだから、いいさもう。足の小指も背中も股関節も、この先訪れることがわかっているあの痛みさえ、全部不問にしてやるから早くしろ。
[20071009]