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あなたの一番ほしいもの何ですか

 広大な遊技室にランドリーつき大浴場ときて、この館の中にはないものはないんじゃないかということになった。ボーリング場やスケートリンクだって望めば無理ではなさそうだ。
「なあ古泉、言ってみろよ。次の扉を開けたらおまえのほしいものがきっと出てくるぞ」
 俺がそんなことを言ったのはただの気まぐれだったのだが、古泉は案外真顔で考えて、にやりと笑うとこう応えた。
「そうですね、恐竜の骨格標本がいっぱい展示されている博物館やプラネタリウム、それか大自然の中の白い一軒家、白いカーテン大きな犬つき、背後には滝と小川があって虹も出ているなんていいでしょうね」
「あほか!」
 俺は言下の元に切り捨てたが、実際次の扉を開いたときには、驚愕のあまりその場に立ちすくむことになった。
 なんたるスペクタクル。というか異様すぎる光景だろう。この館を作った何者かは頭がおかしいに違いない。といか物理学の法則はどこへ行っちまったんだ今すぐ戻ってこい。
 まさに古泉のお望みどおりのものがそこにあった。扉の向こうはどう見ても野外で、晴れ晴れとした青天の下、大峡谷の麓といった感じの森の中にぴかぴかの白い一軒家が建っている。カーテンは白い。リクエストどおりに背景に滝と虹もついている。その家にはどうもプラネタリウムが併設されているらしく、銀色に光る円屋根が不恰好に突き出ているが、それだけならまだ許してやらないこともない。だが庭に当たるのだろう部分に巨大な恐竜の骨格標本が物々しく鎮座しているのはいただけない。それもやたらと数が多い。いったいどれだけあるんだ、さすがは博物館級と指定しただけのことはある。よく見れば大きな犬もいる。巨大骨格標本のサイズに比べると小さく見えるが、あれは体長二メートルくらいあるだろう。自分に与えられた餌と勘違いしてるのか、恐竜の足っぽい部分をがじがじ齧っているが、あれは許されるのか? とか思ってるうちにどうやらこちらに気づいたらしいその犬は、すごい勢いで走り寄ってきた。近づくにつれどんどん大きくなる。うわなんだこの犬、二メートルじゃきかない特大サイズだ、やばい、来るな、飛びかかるな!
 俺は大きな音を立てて扉を閉めた。
「どうしました?」
 古泉が少し離れたところからふしぎそうに声をかけてくる。おまえあれを見なかったのか。おまえの理想が全部詰め込まれたたいそう無体な光景だったのに残念だったなざまあみろ。
 館の一室の中に世界をひとつ置いちまった正体の知れない阿呆を一発殴りたくなったが、どこにいるのかわからなかったので、とりあえず目の前にいた古泉を殴っておいた。

[20071217]