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Sweet or not Sweet Strawberry

 文芸部とプレートの出た部屋に一歩足を踏み入れるとそこには、いつになく甘い匂いが充満していた。
「こんにちは朝比奈さん、今日のお茶はなんですか」
 ふんわりとした白いエプロンも初々しい、我らがエンジェル朝比奈さんは、ティーポットを片手ににっこり微笑んだ。
「キョンくんこんにちは。今日はストロベリーティーなんですよ」
 そうかこれはイチゴの匂いか。
 言われてみるとそんな気もする。俺は机の上に鞄を置くと、パイプ椅子に腰かけた。
「こんにちは」
 正面の席から柔和に微笑みかけてくる男のことはできれば無視したかったのだが、さすがにそうもいかない。
「おう」
 見れば、古泉はすでに朝比奈さんがその繊手でもってお注ぎしたのであろう紅茶を優雅に口に運んでいる。苺の絵の描かれた見たことのない白い陶器のティーセットは、もしかしたら中のお茶に合わせてご持参なさったのですか朝比奈さん。
 しかしそれはこの謎の空間には似つかわしくない、高級感あふれた逸品だった。百均で買えるような安物ではあるまい。しかし古泉には嫌味なほどに似合っている。さまになりすぎていて腹立たしいくらいだ。
 おまえはどこの王子様だと。
「はいどうぞ」
 朝比奈さんは俺のそんなむかつきなどにはまるで無頓着に、古泉に与えたのと同じカップで紅茶をよこしてくださった。おおわたくしめのような庶民にこのようなお慈悲を賜られるとは、さすがは天上界に住まわれるお方だけのことはあります。
 なんてどうして俺が卑屈にならねばならんのだ。
 ちっとも似合わないとわかっちゃいるが、俺は早速その甘い匂いのするお茶をいただくことにした。繊細な取っ手を指でつまみ、薄い陶器の縁に口をつける。
「……ん?」
 甘くない。
 匂いはえらく甘ったるいのに、味は普通の紅茶とほとんど変わらない。
「フレーバーだけですからね、味は甘くはないのですよ」
 古泉がまるで俺の思考をそのまま読んだみたいな発言をした。
「ですが、本物の苺が多少入っていたところで、やはり甘くはないでしょうね。ロシアンティーも相当大量にジャムを投入しないと甘いと感じられませんから」
 悪いが俺には紅茶にジャムを入れる趣味はない。それに紅茶は甘くないほうが好きだからこのままでなんら問題はない。
「それはよかった」
 あまり気持ちがこもっているとは思えないセリフを吐いて、古泉はまたなめらかな手つきでカップを傾けた。
 甘い匂いも繊細な苺模様のティーセットもやはりひどく似合っている。
 しかしこいつも本当は中身は甘くないのだろうかと、ちらりと余計なことを考えた。

[20071013]