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GAME c

「Cはそこそこ迷いましたが、無難なところで手を打ちました」
 三つ目のアイテム提出日は週が替わって月曜だった。僕には週末まるまる考える時間があったので、妙にいろいろ悩んでしまった。
 部室に入ると彼も涼宮さんもそろっていたので、僕は早々に用意してきたアイテムを取り出した。彼の前に差し出すと、まじまじと見つめたあとに、微妙に顔をしかめられた。
「これは?」
「見てのとおりです。カードですよ」
 カードにも様々な種類があるが、僕が選んだのは未使用のポストカードの一枚だった。去年暑中見舞いにするつもりで使いそびれた。だから裏面には夏らしい青空のモチーフが全面に印刷されている。
 そんな変哲のない品を見ながらなぜ彼の眉間の溝が深まっていくのか僕にはとうてい理解できない。
「これには何か由来があるの?」
 涼宮さんが興味津々な顔つきで尋ねてきて、僕は少し申し訳ない気持ちで首を振った。
「いえ、単に出し損ねて残っていただけで、特に由来というものは」
「誰に出すつもりだったの?」
 思いがけずもう一歩踏み込んだ問いを投げられて一瞬言葉に詰まった。
 家族に。というのはなぜか言ってはならないことのような気がした。
 ではほかの誰に僕は暑中見舞いを出す必要があるのだろう。北高に転校してくる前の高校には友達なんかいない。中学時代の友達にとでも答えておくのが無難なのかもしれないが、そらぞらしすぎて口に出す気になれない。今ここにいる僕と、昔の僕とのあいだには深い断絶がある。涼宮さん以外の全員はうっすらとであってもそれを知っている。
「訊くまでもないだろ」
 ふと、突然眠たげな瞼を上げて彼が口を開いた。
「時候の挨拶を欠かさない礼節に厳しい副団長さまのことだ、おまえのとこに出そうとしてたに決まってる」
「えっ、そうなの?」
 涼宮さんは目を丸くした。僕も同じ反応をしそうになったが、寸前に踏みとどまって鷹揚にうなずいてみせた。
「正確に言えばSOS団の全員に、ですね。ですがこの前の夏は少しばたばたしてしまって」
「なんだ、そういうことだったの」
 涼宮さんはあっさり納得してくれて、僕はほっとする反面わずかに良心が痛んだ。思わぬ助け船を出してくれた彼はといえば、なにくわぬ顔でゲームの盤面を机の上に用意している。彼のほうが僕よりずっと機転が利くし、くわせものだ。嘘がうまい。
 感謝をすべきだと思うのに、どこかもやもやとしたものが胸の奥に凝って言葉にならなかった。机をはさんで向かいの席に腰を下ろすと、すぐにゲームが始まった。今日はダイヤモンドゲームだった。
 もやもやと彼のことを考えていたら案の定あっさりと負けた。彼はため息をつき、僕もまたそうしたくなるのを懸命にこらえた。

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[20120101]